経営理念作成のポイント(28) - グループ経営の理念作成【5】
理念・ビジョン策定に取り組む時には、それらをつくることも大切ですが、それに関わるメンバーに当事者意識(経営者意識:自分達が会社経営に当事者として主体的に経営する意識)を持たせることも重要です。トップおよびトップを支える役員や経営幹部がそのような意識が弱いと、理念・ビジョンは作っただけの「絵に描いた餅」に終わってしまいます。
今回事例で取り上げたA社では、次のような出来事が起こりました。
A社のグループ企業の1社であるB社では、社長と役員、幹部社員達の複数で取り組んでいました。第1ステップが終わる頃には、全員で熱心に取り組んでいる姿が見られました(当事者意識は高まっていました)。
第2ステップを進めていると、社長から私に次のような相談がありました。
社長「社員から『社長はこの場から離れてくれ』と言われた。どうしたらいいだろうか?」
社員からそのように言われて、ショックを受けているようでした。私は社長がこれまで社員のことを思って、自ら先頭に立って事業を引っ張ってきていたことをよく知っていました。信頼している幹部からそのように言われた時の社長の気持ちもよく分かりました。
社員に理由を尋ねると、「社長がいるとどうしても社長の発言に頼ってしまう。今回は自分達の力で、自分たちの会社のビジョン、方向を描きたい。」と言いました。
私は社長に「これまで社員のことを考えて事業に取り組んできたのに、社員から社長はいなくてもいいと言われた気持はよく分かります。でも、いまあなたの部下たちは自らの足で立とうとしている。しばらく彼らを見守ってあげましょう。私が様子をしっかりと見ておきますから安心してください」と話をしました。そして社長にはしばらくその場を離れてもらいました。
取り組みが終わってから社長と話をすると、すごく喜んでいました。
「こんなに活き活きした彼らの姿は初めてだ。」
「『社長はいなくていい』と言われた時には、すごくショックだったが、今は良かったと思う。今までは自分が指示しなければ、何も決まらない、何も動かない組織だった。しかし今はそうでない。私が言わなくても、彼らが私の代わりに会社のことを考えてくれる。」
「自分の年齢を考えると、私が社長をできるのも残り6、7年だろう。自分が社長を退職した後、この会社はどうなるんだろうと心配していた。しかし今回の取り組みを通して、彼らの中から事業のバトンを渡せる人が必ず出てくると思う。」
社長と幹部たちの姿を見ると、一つの方向へ向けて強い意志を持ったチームになったのを感じました。
理念やビジョンの策定に取り組んでいると、毎回このような不思議な雰囲気を目の当たりにします。
それを見た時、私はこの仕事をやって良かったと感じ、これまでの苦労がなくなります。
『企業という船にさ
宝物である人間を乗せてさ
舵を取るもの 櫓を漕ぐもの
順風満帆 大海原を 和気藹々と
ひとつ目的に向かう
こんな愉快な航海はないと思うよ』(本田宗一郎)
『話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず』(山本五十六)

経営理念作成のポイント(28) by TEAM KAMATAMA


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